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古都奈良の古本屋 智林堂書店のブログです。店主代理が綴る、本と人との一期一会な日々♪      近鉄奈良駅から徒歩5分ほど、もちいどの商店街内。不定休。11時から18時半頃。0742-24-2544


by nara-chirindo
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図書館本2『光って見えるもの、あれは』 

図書館本2『光って見えるもの、あれは』 _d0105133_19571588.jpg最近、図書館本にあまり当たりが出なくて、このコーナーは随分間があいてしまいました。
たとえ私にとっては面白い本であっても、まがまがしい内容だったりするとこういう場で紹介するのもどうかと思いますし。
そんなわけで、おっこれならまあまあ、と久々に思えた本がこちら。

『光って見えるもの、あれは』 川上弘美著

全作品は読んでいないのでえらそうなことも言えないのですが、川上弘美の書くものはどろどろしている、というイメージを持っていました。
表面的にはさらりとしているようでいて、奥底で情念がとぐろを巻いているような。
いやいっそあからさまなどろどろならそれはそれで嫌いじゃないのですが、なんとなく肌に合わん、と思っていた作家の一人でした。

でもこの作品はちがいましたよ。
意外でした。
主人公が女性ではなく男性、そして高校生というのが良かったのでしょうか。
理知的かつ内省的な高校生。

思春期にある若者が、恋・友情・家族に揺さぶられつつ自分とは、と悩むいわば青春小説、私はけっこう好きです。
それは自分も悩み抜いてきたことだからだろうし、未だに抜けきれていない部分もあるからだろうと思います。
ただ、あまりに紋切り型だったりクサくなりすぎた物語では到底共感できないわけで、そこは作家の力量次第ということになります。

この主人公は、自分の立ち向かうべき問題が実は「細かいチャチなこと」とわかっている醒めた視点もしっかり持っていて、やたらと翻弄されるばかりではないところに好感をおぼえます。
脇役中の好人物は祖母の匡子。
次点で平山水絵。

この作品に限っては、奥底にはどろどろしたものではなく、さっぱりとしたユーモアが感じられます。
そして今回あらためて思いました。
川上弘美は文章がうまい。
言葉の選び方がうまい。
食わず嫌いしかけていた作家を、もう一度見直すことができて良かった!

インパクトには多少欠けるので、星3つぐらいで。☆☆☆
by nara-chirindo | 2007-04-28 20:54 | 本日の図書館本